第64章 結納編 午後
髪を結わせて欲しいと
そう三好があげはに対して申し出て来て
こちらを真っすぐに見つめている
普段のどこかおちゃらけた様な
そんな雰囲気の無い 穏やかな目をした
三好と目が合ってしまって
自分の目頭が熱くなるのを感じる
三好からの申し出を嬉しいと感じて居て
「髪を結うのを、
お願い…してもいいの?三好小母さん」
「ああ、勿論さ。私がそうしたいって
言ってんだ、当然だよ」
支度を整える為に
控室に用意されている鏡台に向かって座ると
三好のその手で
結い上げていたあげはの髪が解かれて
パサッと落ちて広がる
三好があげはの
艶やかな手入れの行き届いた髪を
丁寧に櫛で梳かして行く
「綺麗な…絹糸みたいな髪してんだね…」
その指からサラサラと零れ落ちて行く
滑らかな髪の感触を感じて三好が言った
「あの振袖のお友達がね、髪の毛のお手入れも
鬼殺隊だって女の子なんだから、大事よ?って
私の髪は元から綺麗なんだから、ちゃんと
お手入れしたら、もっと綺麗になるって
口癖みたいにして言って居たから…」
「確かに、あの子もアンタみたいな
綺麗な髪を…してたね」
きっとこうして 三好さんに
髪を梳いて貰って
結って貰うのは 今が最初で最後だって
それは 結われているあげは自身も
結っている方の三好自身も分かって居る事で
自分には母親と呼べる存在は居ないが
今のこの瞬間だけは
三好の事をそんな風に感じてしまって居て
その時間を惜しいと思って居るのは
私だけでなくて 三好さんもそうなのか
部分的に編みこまれた髪を
纏めて結い上げて行くから
普通に結うよりも 時間を掛けて
丁寧に結われているのを感じて居て
「私には、娘は居なかったからねぇ。
娘が産まれたら、
娘の髪を結いたいもんさねなんて
そんな話を、主人に寝間でしたもんさ」
そんな昔の話を三好が
目を細めて懐かしむ様にして来る