第63章 結納編 昼
「(杏寿郎、これしのぶちゃんからです。
今日の昼食代だそうです、
後返品は受け付けないと)」
そう言ってテーブルの下で
さっきの結納金の入った桐箱を
杏寿郎の膝の上に置いた
そしてこっちに押し返そうとするのを
グッと上から押さえつけて拒むと
「(こら、あげは。
何でコレを君が持ってるんだ?
結納金は、女性側の家に納めるものだぞ?)」
「(ですから、こちらはうちの家の者からの、
昼食代と、およびに、結納返しの方を
お世話になりましたお礼にございますのでッ)」
その桐の箱が見えない様に
自分の袖で杏寿郎が隠すと
ギリッとかなり強い力で杏寿郎が
あげはの腕を掴んで
そのままの勢いで立ち上がる
「すまないが、
ちょっと急用が出来てしまいましたので。
皆はそのまま食事を続けていてくれ。すぐに戻る」
「ちょ、杏寿郎…?そんなに引いて頂かずとも
私はちゃんと歩けますのでッ」
有無を言わさず
そのままズンズンと廊下を進んで行く杏寿郎に
腕を掴まれて引っ張られると
そのまま 離れを後にして中庭まで連行されてしまう
「ここまでくればいいか、
で、これはどういう事なんだ?あげは」
『あらあら、困りましたねぇ。
それをあげはさんに尋ねるのは
お角違いですよ~。そちらのお話でしたら、
私の方から致しますが?煉獄さん。
こちらこそ、煉獄さんには、
お話したい事が私には沢山ございますし?
あげはさんともお話をしたいと、
煉獄さんが仰られるのであれば。
私とのお話が済みましたらでしたら、
あげはさんと交代しますけど?
どうなさいますか?煉獄さん』
あげはが杏寿郎の問いに答えるより先に
後ろから声が聞こえて来て
その声の方を振り返ると
そこにはしのぶが立って居て
にっこりとしのぶが
取ってつけた様な笑顔を浮かべていて
自分の両手を合わせて
ね?と首を傾けて見せて来る
ああなってる時のしのぶちゃんには
逆らってはならないと言うのは
蝶屋敷の暗黙の了解だから
「大丈夫かな?杏寿郎」
そう 二人のいる 中庭を廊下から
あげはが振り返り 漏らす様に言うと
元居た部屋へと戻った