第63章 結納編 昼
「おかしいでしょ?こんなの
義勇、怒ってくれてもいいよ?
義勇にはそれを押し付けて置いて
こんなのなんだもの」
情けない話だよね?と
あげはが付け足すと苦笑いをして見せて来て
義勇はその言葉に首を静かに
左右に振ると
「俺はそうは思わない。
お前は今日それを着てる。
それで良かった…んじゃないかと思う。
だが…あげは。ひとつ、
お前の顔を見て分かった事がある」
そう義勇が言って来て
義勇からの言葉の続きを待った
「今のあげはの顔を見ると、
そうしなくて良かったと言う顔に
…俺には見える。
その時にその胡蝶の姉の着物を
焼いてしまわなくて良かったと。違ったか?」
義勇の言葉に今度は
あげはが首を静かに左右に振って
「違わない、そうだよ、義勇。
何も違わないよ。今になって、
その時にそうしなくて良かったって、
気付かされたの…私。それに
気付かせてくれた、杏寿郎が居てくれたから。
預かった物の、袖を通すつもり無かったの。
カナヲに託すまで預かればいいって、
そう思ってたから」
「それは、同じだ」
義勇の言葉にあげはが顔を上げて
そのこちらを静かに見つめている
義勇の深い青い瞳と視線がぶつかる
「え?…、義勇?」
「俺も、この日輪刀を受け取りはしたが。
師範との戦いが済むまでの間だけ。
あげはから預かったつもりで、
引き受けていたから。
だから、同じだと言った。俺も同じだ。
そのつもりでいた、けど…あげはが
俺に言いたい事も、
少しだけ…理解出来た…と思う」
スッと義勇が自分の腰の
透真の日輪刀に右手を伸ばすと
そっとその柄を指先で撫でる
「この日輪刀を見ていると、
師範を思い出すし。
握れば、その重みを嫌ほどに感じる。
振るえば、自分と師範との差を
痛い程に感じる、…そんな刀でしかない…ッ。
なのに、その一方で感じる…、師範と
過ごした時の様な穏やかな気持ちにもなる」