第63章 結納編 昼
「杏寿郎、どうしても貴方に
お礼を言いたくありまして。
今日は、私にこの振袖を着させて下さり。
ありがとうございました。
どうにも、この一枚だけは自分の意思では、
着れそうに無かったので…。
貴方が居なければ、叶いませんでしたから。
杏寿郎には何と、お礼を申し上げれば良い事やら…」
「なぁ、あげは、
目を瞑ってはくれないか?」
ほんの少し顔を寄せれば
口付けられる距離にいるが
いつもの杏寿郎からは
想像も付かない様な
眉を下げて困った様な表情をして
こちらを見つめて来るから
それは今はダメですと言い出しにくくて
お礼を要求されているのだろうが
ここでは 人目についてしまうと言うのに…
「あの…ッ、杏寿郎、先ほども言いましたが。
今は…その、なりま…せ、んッ」
「だが、あんな風に言われてしまって
俺が、堪えられるとでも思って居るのか?君は」
「その、せめて、ここではなくて…後で…ッ」
「ふむ、確かに君の言う事は一理ある…か、
今、君に口付けてしまえば、どうにも俺の方も
収まりが付きそうにないからな」
スルッと杏寿郎の指先がそっと
あげはの紅の乗った唇をなぞって行くと
あげはの紅が薄っすらと移った
自分の指先に自分の唇を寄せて
じっとその瞳であげはの顔を見つめて
二ッと笑みを浮かべて来るから
「なら、口付けは今ではなく
帰りの馬車の中でと言う事でいいか?
あげは。さっきも言ったが、
うっかり熱が込もって
口付け以上になってしまっても
君は、俺に文句は無いと言う事で、
いいんだな?あげは」
その仕草と表情に
どうにも目の前の彼に
色気を感じてしまっていた
そんな風に求められてしまったら
どうなってしまうのだろうか?
「文句…が出ると
思って仰ってますか?杏寿郎。
逆に私から、もっとと…
杏寿郎、貴方に強請ってしまうかも…」
知れませんよ?とその続きを言い終わる前に
グッと両肩を痛みを感じるほどの強さで
掴まれてしまって視線を合わされる