第63章 結納編 昼
「もう、私と杏寿郎は先ほど
結納を取り交わした仲にございますよ?
それに、杏寿郎の事、結婚自体も
近い内にとお考えなのでありましょう?
でしたら、尚更振袖など高価な贈り物を
頂く訳には行きません。
独身の間でしか、着れない様な振袖を
では、ありがたくと頂戴する訳には行きませんので」
そう言って今度は先ほどまでとは
別の意味であげはに
顔を逸らされてしまったが
「あげは、すまかった。
なぁ、機嫌を直してくれないか?
今日の君が、あまりにも…その。
眩い程に輝かしく…、美しくて…だな。
もっと、君の着飾った姿を
見たいと思ってしまったんだ。
その、断じて、俺はその、変な
邪な感情で言ってるのではなくにだな。
振袖なら、俺が贈った物なら
後に袖を切る事も出来るだろう?
あげは、俺から君に
振袖を贈らせてはくれないか?」
袖を切ればいいとは
杏寿郎は言ってくるけど
そんなそれこそ 振袖の姿で
着る機会が無い様な振袖を贈りたいと
杏寿郎がこちらに対して言って来て
「俺の、選んだ振袖を…君に
着てもらいたいのだが?」
「あのっ、杏寿郎…ッ、振袖…を、
杏寿郎から…その、頂戴して…も?」
高価だからと彼からの申し出を断ったが
欲しいとそう自分の気持ちを
あげはが杏寿郎に対して伝えて来て
「俺が、言いたかったこと…も、ちゃんと
汲んでくれた様だな。あげは。
流石は俺のあげはだな」
杏寿郎があげはのその返事に
満足そうに頷いて笑みを浮かべていて
「その、杏寿郎の下さる振袖を
結婚式の時の、…掛下にとお考えに?」
「ああ、そうすれば、結婚式でも着れるからな。
本当なら反物から仕立てさせたい所だが。
それが出来ないのが悔やまれる位だ。
あげは。俺からの振袖、
受け取ってくれる気になってくれたんだろう?」
ギュッとあげはが杏寿郎の着物を握ると
その身を寄せて来て 首を縦に振るから
そっとその身体に自分の腕を回して包み込む
ここが 中庭でなければ
唇を寄せてしまいたい所だな
「杏寿郎」
あげはが杏寿郎の名を呼んで来て
「あげは…?」