第63章 結納編 昼
「今日の杏寿郎は、素敵です。
それにカッコイイにあります…よ?」
「むっ、そうか?
もっと…、言って貰いたいがな?君に」
「あの、杏寿郎…ッ、その…ッ」
自然と身体の距離が近くなっていて
あげはが視線から逃れる様にして
顔を背けるから その視線をこちらに
向けさせたいと思ってしまう
「俺達は、夫婦になるのだろう?
なら、俺から視線を逸らせてくれるな。
俺の方を見てくれないか?あげは。
そう、恥ずかしがらなくても
いいんじゃないのか?」
「その、お言葉にあるのですが、杏寿郎。
杏寿郎のいた控室からも中庭は望めましたよね?
私が居た控室からも、前に昼食を頂いた
あの特別仕様の個室からも中庭は望める
そんな回廊の様な造りになって居ると
思うのでありますが?」
視線を尚に逸らせながら
あげはが釘を刺す様に言って来て
そう言えば この店はどの個室からも
中庭が眺められる構造になっていたか
と言う事は 当然控室からも
当然にこの中庭が見えるし
この店で食事をしている他の個室の客からも
俺達のいる この中庭が見えるのか
パッと杏寿郎があげはの身体に
回していた自分の手を放して
あげはとの距離を取ると
コホンとひとつ咳払いをして
「す、すまなかった。あげは。
俺とした事が…君があまりにも、
可愛らしい事を言ってくれる物だから。
ついに…唇のひとつでも、
寄せてしまいたくなってしまって居たな。
それは今は、不本意ではあるが
遠慮しといた方が良さそうだ」
「つい…に、ここが中庭であるのを忘れて
唇を寄せてしまいたく…なってしまう
物なのでありますか?杏寿郎…。
杏寿郎もご存じにありましょうが、
こちら振袖は今は、私の元にございますが。
カナエちゃんからお預かりしている
借り物にありますよ?杏寿郎」
「それは、そうなんだが…な。
ああ!なら、振袖を俺から君に贈るが?」
ジトっとした視線を
あげはが杏寿郎に向けて来て
「なっ、なぜ、そんな顔をする?
あげは。君がそんな顔をする、
理由を俺に教えてくれないか?」