第63章 結納編 昼
三好がそう言った後に
しのぶの気配が襖の向こうから
近付いてくるのを感じた
カナエの振袖を着て
しのぶと対面するのだと思うと
良く知っているしのぶに対して
緊張してしまっている自分がいて
「もしもーし、大丈夫ですか?
あのー、あげはさーん?
準備は整っておられますか?
そろそろ、あちらのお部屋の方に、
結納品の飾りつけに行かなければ
ならない時間になるのですが、
ご準備の方は大丈夫でしょうか?」
そうこちらの様子を伺うようにして
しのぶが襖の向こうから
声をこちらに掛けて来る
「しのぶちゃん?うん、大丈夫。
もう着付けも終わってるから…」
ドキドキと心臓が騒がしくなってくる
いよいよなんだって
「あげは様、大丈夫です。
ばっちり、お似合いですので。
安心して、行って来て下さい」
「そうなのです、お似合いなのです。
頑張って来て下さい!」
「私達はここまでですので、残念です」
「ここで結納が終わるまで、
皆で待ってますので。部屋は
違いますけど、一緒なのです」
「うん、ありがとう。4人共。
じゃあ、行って来る…ね」
支度を整えてくれた
アオイと3人娘にあげはが礼を言うと
迎えに来たしのぶとカナヲの待つ
部屋の外へ向かって行った
ガラッと襖を開いて廊下に出る
「しのぶちゃん、カナヲ、お待たせ」
廊下であげはを待って居た
しのぶとカナヲにそう声を掛けると
しのぶとカナヲはあげはの姿を見て
口元を押さえて目を見開くと
そのまま黙り込んでしまって居て
「あげは…姉さん。ああ、そのお姿。
…カナエ姉さんの着物…着て下さったんですね」
「…ああ、本当に。こんな日が来るなんて、
信じられない…夢みたい」
「ちょ、2人共…止めて止めて。
まだ始まってないのにッ」
普段あまり感情の起伏を表に出さないカナヲと
本心を見せない ポーカーフェイスのしのぶが
その顔に 嬉しいと言う喜びの色を
こちらの目に見える形に見せているのだから
結納が始まる前から泣きそうになってしまった