第62章 結納編 朝
「あげは様、
振袖にお袖を…お通し下さい」
「お通し下さいなのです」
「なのです」
桃色から黄緑へと移り変わる地色に
咲き乱れる百花に蝶の柄
カナエの髪飾りと
花の呼吸を偲ばせる柄の
その振袖を
4人がこちらに向けて運んで来て
あげはにカナエの振袖に
腕を通す様にと促して来る
カナエちゃんが 着る事が叶わなかった振袖
あの時に 一緒に
これを火葬してしまわなくて良かった
今の私にはそう思える
その振袖の中の蝶が1匹
その中からひらっと
飛び出て来て ヒラヒラと…
あげはの周囲を
着てもいいよと言うかのように
円を描いて
飛びながら昇って行って
ふっと視界から消えると
あげはが慌てて視線を振袖に戻す
さっきまで抜け出ていた蝶が
そこに戻って居て
心なしか 柄が
元の位置よりもずれた様に見えてしまって
ふふふと思わずおかしくなって笑ってしまった
「あげは様?どうかさないましたか?」
「ううん、何でもない。着替えるね」
不思議とその蝶のお陰で気持ちがスッと落ち着いて
その振袖にあげはが袖を通した
自分の目の前の4人の顔を見ていれば
どう?なんて聞かなくていいのが分かる
「…っ、あげは様…、
とても、お似合い…です」
そうアオイが言葉を
詰まらせながらにそう言うと
「ありがとう、アオイちゃん。
アオイちゃんがそう言ってくれるなら、
大丈夫だよね?」
そう言ってニコッと笑顔を作って見せる
そのカナエに良く似たあげはの笑顔に
面影を重ねてしまって居て
「嬉しいです…っ、あげは様、絶対に
炎柱様とお幸せになって下さいなのです」
「ダメッ、すみちゃん、泣かないって
ここに来る前に約束したでしょ?
今は、泣いちゃダメ」
「だって、私達が泣いちゃったら、
あげはさんが泣いちゃうから
ダメってしのぶ様が~」