第8章 療養編 蝶屋敷にて
さっきしたと言われれば そうなのだが
俺としては もっと愛を囁き合いたい所だ
まぁ 彼女の言い分も分かる
俺が感情を持て余してしまうと
思っているのだろうが…
正直な所 否定できない
「少々、口惜しい気もするが、仕方あるまい
一つ、聞いてもいいか?」
「何ですか?杏寿郎さん」
「昨日の馬車での話した事なのだが…、君の
言葉の通りなら、俺の傷が治ればいいのだな?」
一瞬 杏寿郎が何についての
確認を私にしようとしてるのが理解できず
昨日馬車の中での出来事を思い返してみる
「これ以上は傷に障ると、
断られた様に記憶しているが?」
その言葉で何を意味しているのかが理解できた
つまりはその… もっと深い情熱的な
口付けを交わしたいと彼は言っているのだ
「君は俺の事を、堪えのない男だと
…思っているのかも知れんが。そうではない」
だったらまるで 自分に堪えのある
我慢強い方だと言っているように聞こえる
唇を吸うなと何度も言ってるのに
吸ってしまっているのに?どの辺りが……
あ まさか…
確認している内容と照らし合わせて考えると
この人は そっちの口付けをするのを
我慢していると…いう訳で…
けど 傷に障るのでと
お断りをした以上は障らない状態になったら
それを理由では断れないだろうし…
「あの…、お言葉なのですが…、昨日の、
今日ですよ?」
「そ、それは理解している!」
「だったら…、事を急く必要も…
ないのでは…?」
「それも、理解しているつもりだ!」
「理解してる人の言動とは、
思えませんけども?」
「その辺りも、理解している…つもりだ」
と尻すぼみ気味に答えた
「約束は…守るし、…君に嫌われる…
ような真似はしたくは…ない」
卑怯な程に 耳元で囁かれた言葉は
酷く 熱を帯びていて
私に彼の感情を 見せつけてくるかの様で
直接的な言葉ではない…けど
これじゃ 足りないと…言われてるのは確かで
あまり長くは…断りは…続けられる
自信がない…けど こちらとしても
「でも、…私も、杏寿郎さんも
肋骨を骨折してるので…。完治するまでは、
呼吸もちゃんと使えないですし…」
「もう少し、まかりならないだろうか?」
そんな事を言われても 困る…