第8章 療養編 蝶屋敷にて
女性が紅を引く姿を好む 男がいると聞くが
なかなかに… 色めいた 趣のある姿だな
少し腫れて いつもより赤味のある
彼女の唇にハチミツの艶やかさが加わり
何とも 色気を 余計に感じてしまう
腫れている原因を作っておきながら
不甲斐ないが
余計に口付けを… したくなるな
ハチミツとカミツレの入った
軟膏と言うよりは
リップクリームに近いそれは
少し甘くて カミツレの上品な香りと
炎症を抑えてくれる効果がある
ガチャっとノックなしに病室のドアが開いて
「言い忘れていましたが、あげはさんの唇が
腫れているのは、煉獄さんの、
口付けが激しかったからでしょう?」
にんまりとしのぶが笑うと
「だって…、優しい口付けじゃ…そんな風に、
腫れたりしませんほどほどに
お願いしますねー。では」
と更に続けた
「その…、すまなかったな」
「い、いえ…」
何となく バレてるのは知っていたが
ここまで露骨に指摘されると 恥ずかしい
「君の唇を…腫らしておいて…何だが」
そう言いながらあげはのベットを囲っている
カーテンの中に入るとジャッーと閉め直した
「自分でも、…情けないのだが…」
「…え?…情けない?って…」
情けないとは一体 何が情けないのだろう?
杏寿郎の目を見て気が付いた
「ダメですからね?」
「嫌なのか?」
「そんな顔してもダメです」
あげはは乞うような表情をされると
断れないと思ったのだが ダメだったか
「だって、杏寿郎さん…、ダメって言ってるのに
すぐ、吸ったりはんだりするじゃないですか…
さっきの…今ですよ?ちょっとは遠慮を…」
「だったら…、口以外の所ならいいのか?
それなら腫れる心配もないと思うが?」
「それは…そうかも、しれませんが…
容認しかねます」
「どこにされるおつもりなのかは、
私にはわかりませんが……唇以上に、
目立つようにされても困りますし?」
と毅然とした態度で言われてしまった
「君は俺の考えていることがわかるのか!」
しそうな感じがしたから鎌をかけたのだが
以心伝心だと喜ばれてしまうとは
「ダメだって言ってるんですよ?私は」
「それは…そうだが…、どうしてもなのか?」
「それに…口付けなら…、先程も…」