第62章 結納編 朝
「すまないが、本日は世話になる」
そう槇寿郎が答えて
三好に向かって小さく頭を下げる
「良いってもんよ、こっちとしても
いい仕事させて貰ってんだかんね。
私とあげはちゃんとは、
血の繋がりってもんはないけど
小さい頃からずーっと知ってんだ。
あの小さかったあげはちゃんが、
結納をうちの店でするなんてね、
わたしゃ思っても無かったよ。
さ、控室に案内するから、ついといで。
とっても可愛い髪結いさん達が控えてるよ」
そう三好が槇寿郎に向けていた話の
途中からあげはに向かって言って来て
杏寿郎はその三好の言葉に首を傾げる
可愛い髪結いさん…
にんまりと三好が杏寿郎と槇寿郎
それから槇寿郎の方を見て来て
「旦那さん達の方は、
可愛い…髪結いさんじゃなくて。
お色気ムンムンな、髪結いさん達が
旦那さん達のお着きを待ってるよ?」
そう三好が男性陣に向かって声を掛けるから
今度は三好の言葉に意味が分からないと
あげはが首を傾げて
アンタはこっちと
後ろから肩に手を三好に添えられて
ズンズンと廊下を押されながら
そのまま控室の方向へ連行される
「えっ、あ、あのっ、三好小母さんっ」
別々になる前に杏寿郎ともう少し
話したいと思って居た事があったのに
こっちが口を挟む間も与えて貰えずに
グイグイと身体を押されて行く
「じゃあ、あげはちゃんは
こっちで預かって行くから。
しげちゃん、旦那さん達、案内してやって」
しげちゃんと三好に言われた
別の仲居が奥から出て来て
3人に丁寧に頭を下げると
「では、控室に方にご案内を致します」
と老舗の名店らしい接客で
こちらに後を付いて来る様に促して来て
しげと言う名の仲居の後を歩いて
結納の会場の奥の院と言う離れではなく
厨房のある母屋の奥にある
普段は接客には使われて居ない
和室の一室に案内される
「どうぞ、こちらが
男性用の控室でございます」