第62章 結納編 朝
頭が痛いとでも言いたげに
槇寿郎が自分の手で額を押さえていて
それからコホンとわざとらしく
大きな咳払いをひとつすると
「その、あれだ…、孫を抱かせろ。
なるべく早くに、…頼んだぞ?あげは」
「分かりました。父上。
なるべく早く、父上の
そのご期待に沿えるよう努力致します!」
あげはの言葉を遮って
杏寿郎がそう返事を返して
「杏寿郎?俺はお前には言ってないが?」
「そうにあります、杏寿郎さん」
「面目ない。つい…、ひとりで
その、熱くなってしまってだな…ッ。
いや、話に割って入ったのは、
悪かったと思っている!すまなかった!」
2人に冷ややかな視線を向けられて
杏寿郎が萎縮してしまったのは
言うまでにもない話ではあるのだが
「まぁ、お前にも…同じ事を
言ってやらん事も無いがな?杏寿郎」
「…―っ!?父上…。
はい、ありがとうございます」
その後 会話が途切れて
また馬車の中に沈黙が続いて
「ああ、そうだ。あげは。
あちらに着いてしまえば
君はあちらの蝶屋敷側になるから。
今日の流れの説明でも、今の内にして置こう」
そう杏寿郎が話題を変える様にして
こちらに言い出して来て
今日の結納についての詳細な説明を受けた
両家の親族が一同に集う
略式結納であるが
仲人を立てていると杏寿郎が言って来て
どうにも略式でありながらに
第一礼装であるし仲人も立てているのなら
正式結納に両家の顔合わせをくっつけた形の
結納の形式を杏寿郎が取りたいのだとは
あげはにも理解をする事が出来たが
結納返しについては
既に今日に合わせて
蝶屋敷から用意をしていると
そう杏寿郎が言ってはいたが
きっと杏寿郎の事だから
どっちの分も用意してそうだ
いやでも用意してるのは
杏寿郎と言うよりは
工藤さん…だと言った方が
正しいかも知れない
元々着付けと髪のセットと化粧は
あちらに着いてからと聞いてはいたけど
それにしても…仲人…は誰なのだろう?