第62章 結納編 朝
「だが、奴はそうだからだ…。
俺はアイツには、敵う気がした事がない」
「敵いましょう、杏寿郎さんなら。
彼に、透真さんにも敵いましょう。
杏寿郎さんは、私にその覚悟を
決めさせるに値する方にあられましたので。
槇寿郎様。ご子息を、杏寿郎さんを
私にお預け頂けますでしょうか?」
「ふん、好きにしろ。
こんな息子、あげは、お前にくれてやる。
つまらん。お前もそうなるのか。
アイツもとんでもないバケモノだったが。
あのバケモノが見初めただけの事はあるな。
お前もとんだ、バケモノだ…な。あげは」
にこっとあげはが両手を合わせて
槇寿郎に向けて満面の笑みを浮かべていて
「でしたら、杏寿郎さんを頂くついでに
頂きたい物があるのですが?槇寿郎様に
強請っても?構いませんでしょうか?」
「何が欲しいと言うんだ?あげは。
お前は俺からまだ何か、むしり取るつもりか?」
「約束を…ひとつ、槇寿郎様。
私として頂きたくあります」
あげはが槇寿郎に約束をして欲しいと言う
その内容を伝えると
「何かと思えば、そんな事か。
それは約束するまでもない、
俺の口から、お前に言い出した事だ」
「そうであったとしても、にあります。
師範には、お前の考えは甘ちゃんだと
お説教されてしまいましたが。
どこまで行っても、この甘ちゃんな考えが
この私にございますので」
グッとあげはが自分の胸の上に当てた
右手の平を自分の胸に強く押し込むと
じっと真っすぐな目を槇寿郎に対して向けて来て
「私が全てをこの手で終わらせることが
出来ましたら、私を、
槇寿郎様の娘にして頂きたくあります」
「お前は欲のないヤツだ…な、あげは。
どんな願いを言い出すかと
思って聞いて居れば。そんな事か」
「でしたら、欲張りなお願いにしても?」
「今度は何を言い出すつもりだ?」
「槇寿郎様のその、
お気持ちを頂戴したくあります」
ニコニコと満面の笑みのあげはに対して
この世の終わりの様な顔を槇寿郎がしていて
「ふん、食えん女だなお前は。
お前の目的はそれか?…女狐め…ッ」