第62章 結納編 朝
「それは、あげは。
お前はアイツの何として臨むつもりでいる?」
自分の心の中にある
この感情の種類を槇寿郎は尋ねて来て
この感情をどう表せば良いのか…
複数の感情が入り乱れて同時に存在して居て
大凡に 一つの言葉には表せる術を持たない
元婚約者として…だろうか?
元恋人として…だろうか?
師弟として…だろうか?
「…それは…ッ」
「あげは、その先は言わなくていい」
スッと自分の隣にいる
あげはの前に杏寿郎が腕を伸ばして
それ以上の返答は不要だと遮る様に制止した
「俺が言った事にあります。父上。
俺は彼女の中にある形がどうであれ、
彼女に、あげはに彼を
忘れて欲しいとは思わないし望まない」
ふんっと槇寿郎がつまらないとでも
言いたげにして鼻から息を吐き出すと
「成程。杏寿郎…それがお前の答えか?」
しばしお互いの顔を見合わせると
杏寿郎が小さく首を左右に振った
「いえ、そうではありません。
俺が彼女の全てになるのは、
今でないだけの事。
いづれは、そうなって欲しいと
俺が彼女に望んでいるのは事実。
それに俺は、
そうある彼女も受け入れられる。」
「杏寿郎。お前にそれが納まるのか?
言うのは勝手だが、その言葉の意味位は
自分でも分かってるんだろう?」
自分が言っているその言葉の意味が
理解出来ているのかと
そう槇寿郎が杏寿郎に確認して来る
俺の性格でそれに耐えられるのかとでも
父上は言いたいのかも知れないが…
「今ここに、彼女が存在してる事それすらが、
彼の存在があるからこそだからにあります。
なら、俺は彼を
否定する事はできない。すべきではない!
それほどまでに、彼は偉大な存在だ。
父上、何より貴方が
そう言っているではありませんか。
父上。貴方にとっても、彼と言う
三上透真と言う存在が大きいのだと」