第62章 結納編 朝
「ねぇ、カナヲ。
その訪問着…は、もしかしたら…」
もしかしたら
あげは姉さんが反物から
染めさせて仕立ててくれたのかも知れない
あの頃の カナエ姉さんが居た頃の記憶を
この訪問着の中に
閉じ込めてくれたのかも知れない
決して散る事のない満開の桜と
その桜を眺める 2匹の蝶々…
「あげは…姉さん」
カナヲが自分の訪問着の中の
寄り添って飛んでいる2匹の蝶を
愛おしむ様にしてそっと手で撫でると
スッと着物を持ち上げて自分の頬を寄せる
「次にあの桜が咲いたら、
あげは様をお誘いして、
お花見を致しましょう」
そうアオイが言って来て
そのアオイの言葉にカナヲが目を見開いた
「アオイっ…いいの?
お花見、したい。
わたっ、私ッ、今度は…ッ、
あげは姉さんと一緒に、
ふたりで、あの桜を見たい」
そうカナヲが自分の気持ちを
ストレートに表現をして来て
ぎゅっとアオイがカナヲの両手を握って
普段は見せない様なそんな穏やかな笑顔を
カナヲに向けて来て
「…―――ッ、アオイ…」
「カナエ様がいつも、
カナヲ、貴方を心配されておりましたから。
でも、貴方は変わった。
それも、とてもいい方に変わった。
きっとカナエ様も、
あげは様もお喜びでしょう。
なのに、それなのに…、
私は、変われないままなのに…ッ」
ぎゅっと今度は握られていた手で
カナヲがアオイの手を握り返して
「そんな事…ない。そんな事はない!
アオイが…居てくれて、良かった嬉しい。
ここに、アオイに居て欲しい…、
私、上手く言葉に出来ないけど…、そう思う。
アオイはそう言うけど、助けてもらったから…」
いつも淡々とした口調で話すカナヲが
珍しく声を荒げてそう言って来て
「べ、別に…ッ、私は、…そのッ」
いつもテキパキと仕事を手際よく
次々にこなして行くアオイが
珍しくその手を止めてしまっていて
「アオイ、いつも、ありがとう」