第60章 気遣いと気遣い 後編
お猪口ではなくぐい飲みにしてくれたのは
ここで好みの濃度に
私と杏寿郎がそれぞれに調整して下さいと言う
意味なのかも知れない
それも おつまみには
丁寧な事にカボチャの種を
チョコレートで固めた物が添えられていて
断わったのにとあげはは内心
望月の事を恨みたい気分になってしまったのだが
甘さを控えた ビターチョコレートなのは
その色を見れば分かるのだけども
ご丁寧な事にクルミのチョコレート掛けも
隣に添えて来る仕事の確かさだ
それから 最後に
バナナも食べやすい大きさになって居て
チョコレートでコーティングされて
つまようじが刺してある
バナナは台湾から輸入されている
高級品だけども…
「望月は洋館の主人に仕えていただけの
事はあるな、酒のあても洋風な感じがするな」
いや どっちかと言うと
このラインナップは 夜のお菓子的な
そんな 感じの選択だと思うけどな
「望月から、さっき聞いたんだがな
ミードと言うらしいぞ?蜂蜜を使った
酒の歴史は古く。最古の酒だったらしいな」
望月の受け売りだがなと
言いながら蜂蜜の瓶から
ぐい飲みの底に
蜂蜜を移していく
トロトロとその黄金色が
糸を引いて注がれていくのを眺める
その上に熱燗を注げば
薄っすらと蜂蜜の香りが漂う
淡い黄色の酒になる
あの 独特の熱燗の時の
香りが薄まっているのを感じて
「とりあえず、飲むか?」
「え、ええ。そうですね。
頂いてみましょうか?」
乾杯とぐい飲みを合わせて
その淡い黄色の日本酒を口に含むと
舌触りも喉越しも
驚く程に滑らかで優しい口当たりを感じる
「これは、悪く無いな…蜂蜜酒」
普通の熱燗にはないその感覚に
ついついに酒が進んでしまいそうだ
「熱燗にした時の、あの独特な香りが
柔らかくなったようにありますね」
熱燗はあまりあげはは好まないが
風呂上がりだからか
蜂蜜酒の所為なのか
ほんのりと頬に赤味が差しているのが見えて
僅かに芯の濡れている髪が
首筋に少し残って居るのもまた…
いつも以上に
あげはから色気を感じてしまうのは
俺の気のせいなのだろうか
それとも… 俺も少々酒を飲み過ぎたか…
飲むのはこの辺りで切り上げようかと
そう思て 視線を移すと
机の端に置いた望月の本が目に入る