第60章 気遣いと気遣い 後編
まさかこんな所で台所を借りて
そんな物を作るとは思ってなかったけど
「あっ!」
とあげはが声を上げて
「どうか、なさいましたか?」
「いえ、蜜蝋で蝋燭でも
作ろうかと考えておりました。
バラの乾燥させた花びらがあるので、
匂い袋にはしたのですが、
他にも何か出来たらと思いまして」
蜂蜜もいいけど 蜜蝋も保湿効果があるし
とかと考えていて 蜜蝋で作るなら
蝋燭もいいなと思って居る内に
あのバラのポプリを蝋燭に加工するのを
思いついてしまった…
「蝋燭にありますか?」
「すいません、私事にありました。
今はこちらに集中しましょう」
蜂蜜に泡立てた卵白を加えて
それに小麦粉と卵を加えて行って
硬さを調整して混ぜ合わせて練って行く
蜂蜜の甘い香りの漂う
白いパックが出来上がって
「完成…したと思うのですが、
少し、手で試してみますか?」
「いいんですか?」
料理に使うハケで
一条の手の甲に片手だけ
それを塗り込んで しばらく放置して
水道でそれを洗い流すと
「左右、比べて見て頂いても?」
パックをした方として無い方の手を
一条が手の甲を並べて見せて来て
「白く…なってる?こっちだけ」
「そうですよね?私も、施術を受けた後に
肌が白くなった気がしていたので。
これを、是非に、一条さんと清水さんの
お二人でお使いになって下さい」
そう言って ズイっと
その小さなボールのパックを
あげはが一条に差し出した
「私もまた、あちらでも作ります。
簡単に作れますし、効果も
この身を持って経験しておりますから」
『こちらに居られたのですか?
あげは様、杏寿郎様が…お探しに』
そう台所に清水が入って来て
「清水さん、丁度良かったです
清水さんも手をこうして、
こちらに来てください」
着物の袖を捲って
手の甲と手首を露出するように
一条が促して来て
「??…えっと。こうで、ありますか?」
清水が状況が掴めないままに
自分の着物を捲って 手と手首を出すと
「失礼しますね」
あげはが清水の手を
自分の手の上に置いて甲にハケで
白い粘り気のある物を塗っていく