第60章 気遣いと気遣い 後編
俺の記憶が確かなら
昨日竈門少年と家に来た時も
父上が同じ事を俺に尋ねて来てたので
父上にとって重要な
質問なのであろうが…
「俺は呆けて、昨日も今も
そんな事を言ってるんじゃないぞ?
お前はそんな事も分からないのか、杏寿郎」
槇寿郎が自分のお猪口に視線を落とすと
ゆらゆらと月が揺れていて
その揺らぐ月を中の酒と共に飲み干した
三上透真との戦いに
赴くのは この息子だと言うのに
自分の隣の 杏寿郎は
それを気に掛けている様子も無い
「………」
杏寿郎は無言のままで
自分のお猪口に月を映して
その月ごと その中を干すと
空いたお猪口に
槇寿郎が酒を満たす
「まぁ、飲め」
「あげはは、頑張ってくれています」
「そんな事は、知ってる。
アイツと戦う事を決めたんだ。
アイツみたいな化け物と、
戦う覚悟なんざ、そう出来ん。
だが、あげはがそれを決めたのも、
それも、全て、杏寿郎。
お前と生きる為に…だからな」
あの時に 杏寿郎には
あげはのアイツの
死ねない理由になってやれと
俺はコイツに話したが
死ねない理由…所か
生きたい理由になって来やがったか
「仰って頂かずとも。
俺は彼女の、その決意に応えるつもりです。
俺の生涯をかけて彼女を愛して、守り抜きたい。
彼女が、この戦いで失う物以上を、
与えられる存在になりたい」
ふんと槇寿郎が鼻を鳴らして
ちらっと杏寿郎を一瞥すると
視線を中庭に向けて
「なりたいじゃなく、なれ。
俺の息子なら、それぐらいしろ。杏寿郎」
その嫌味に満ちた様な言葉の端々から
槇寿郎の気持ちが溢れる様に感じられて
「元より、そのつもりにあります!」
「随分と、男前になりやがったな、
杏寿郎。ふん…、つまらんやつだ」
そう今度は拗ねた様な口調で
槇寿郎が言って来る
一体 父上は俺にどうして欲しいのか…と
問い返そうかと 杏寿郎が考えていると