第59章 気遣いと気遣い 前編
睨むような視線を
杏寿郎が槇寿郎に向けていて
「生憎俺には、娘は居らんが…。
杏寿郎の嫁になるのなら。
あげは、お前は、俺の
娘になると言う事でもあるからな」
「私が…、
槇寿郎様の娘…に、ありますか?」
杏寿郎と婚姻関係を結べば
彼の父親である 槇寿郎の義理の娘と
言う事になるのはなるが
「まぁ、俺なんぞが、
お前の父親になった所で。
至らぬ、父にしかならんだろうがな」
「不束者の至らぬ娘に御座いますが、
槇寿郎様の娘になれる事、
身に余る喜びに御座います」
そう三つ指を付いて
あげはが深々と槇寿郎に頭を下げる
「でしたら、僕は姉上の弟にありますね」
そう興奮気味に千寿郎が言って
にこっとこちらに笑みを浮かべて来る
「私は、幸せ者にありますね。
こんな素敵なお父様に、素敵な弟まで…。
全ては素敵な、
旦那様のお陰にございますね?
そうでありましょう?杏寿郎」
「それはいいが、あげは。
俺や千寿郎に構うのはそこそこにしておけ。
それを、適当に構って置かないと後が面倒だ」
槇寿郎が呆れた様な顔をしながら
複雑な心境で言葉を詰まらせている
杏寿郎の方を顎でしゃくって
何とかしろと あげはに訴えて来て
「そう言えば…、
前にご主人様が、杏寿郎様の事を、
杏寿郎は出来た息子だが、
あげはが絡むとどうしようもないと
仰っておられましたが」
そう言って使用人の清水が
槇寿郎としては杏寿郎に
伝えてほしくない事を言って来て
清水は聞き上手だから
人から胸の内を打ち明けられるが
清水自身がが 明け透けな性格なので
自分の事を何でもかんでも話してしまう様に
その辺りの事を 全く悪気なく
本人に伝えたりしてしまうからな
望月がその清水の様子を見ながら考えていて
「清水っ」
「いえいえっ、申し訳ございませんッ、
ご主人様。私は、只…ああ…えっとっ、
お風呂ッ、お風呂の準備をして来ます」