第59章 気遣いと気遣い 前編
「し…しかし、にありますが。
杏寿郎。その、先ほども……」
「俺が本当にしたい様にしていたら、
こんな物では済んでないだろう?
昼間の蕎麦屋にしても、今にしても…。
君もそうは思わないか?違うか?」
前も 5日程
蜜璃ちゃんの所に行っていて
杏寿郎の元を離れていた時期があったけど
その時の彼と交わした
あの情交を思い出してしまって
「まだ、あの蕎麦屋からこっちに
戻って来れてもないかもな」
そう冗談めいて言って来て
はははははと豪快にいつもの様に笑った
それが全くの冗談ぽく
全然聞こえないのではあるのだが
杏寿郎が言うと
「ん?どうしたんだ?あげは。
望月をあまり待たせても悪いだろう?」
「いえ、別に、
何もございませんよ、杏寿郎。
お待たせ致しました。では、参りましょうか」
離れの外で待っていた
望月の元へ急ぐと
望月が穏やかな笑顔を
いや 彼は常に穏やかな笑顔なのだけども
「待たせたか?すまないな」
「いいえ、ご心配には及びません故。
よろしければなのではありますが、
蜂蜜にも、同様の
効果が期待できますので。
蜂蜜酒にして後程、こちらに
お持ち致しましょうか?あげは様」
「蜂蜜を酒に入れると旨いのか?」
「ええ、蜂蜜があの熱燗にした日本酒の
あの独特な香りを中和しますから、
大変飲み口がよろしくなるかと。
蜂蜜はこちらにありましょうので、
日本酒の熱燗のみ、ご用意致しましょう」
そう満面の笑みで望月が言って来て
望月は常に笑顔を絶やさないが
仕事にあまり私情を挟む方でもないし
望月がこんな笑顔をするのも珍しいと感じて
自分の隣のあげはの方を見ると
あげはもあげはで 職業柄
常に笑顔ではあるのだが
満面の笑みの望月に対して
どこか曇った様なそんな笑顔を浮かべていて
この二人の中の
せめぎ合いの様な物を
感じずには居られないのだが…
それに 蜂蜜の酒は
俺ではなくあげはに必要かを
尋ねていたが それは 一体…と
疑問に思わなくもないのだが