第59章 気遣いと気遣い 前編
そう あげはがこちらに
許しを乞いながら言って来て
確かに
こんな口付けをしていては
このまま 俺としても
なし崩しになってしまいそうだ
「そうだな。名残惜しいが、
君のその蜂蜜で蕩けて甘くなってしまった
その顔と、その声をこれ以上見聞きするのは、
俺も正直、辛いからな。と言いたい所だが…」
指を口の中から抜き去ると
ギュッと身体を抱きしめられてしまって
スゥっとを首の辺りの匂いと
それから胸元の辺りの匂いを嗅がれてしまって
そのまま 身体を畳の上に倒されると
「あの…、杏寿郎…、
何を…なさるおつもりに?」
「身体からも、蜂蜜の匂いがするな。
あげは、見られたのか?身体も」
「あっ、あの…杏寿郎?
しかしですね、相手はそう言った事も
良く事情もご存じにあられましたし、
お慣れになっておられるご様子でしたよ?
それに、相手は女性にあります」
「あげは」
そう 圧を感じる様な位に
静かに杏寿郎があげはの名を呼んで来て
「正直に、答えるといい。
君のここの蝶を、
俺でない、誰かに見られたのか?」
そう言って杏寿郎の指先が
赤く色濃い色をしている
左の鎖骨の下の蝶を
着物上からなぞって来て
ギュッとあげはが自分の瞼を閉じると
「んっ、そうに…あります」
「そうか、なら…もう、君の身体には
俺しか知らない蝶は居ないと言う事だな?」
そう今度は 左の鎖骨の下と
項の蝶の両方を見られたのかと
杏寿郎が問いかけて来て
グイっと 強引に力任せに
襟の合わせを開かされて
「やっ…ッ、杏寿郎…、なりま…せ、んッ」
明るみの元に晒された
あげはの左の鎖骨の下の蝶に
杏寿郎が自分の
指先に纏わせた蜂蜜を塗り込んで行く
「俺の蝶を、確かめてるだけだが?
それ以上の意味はない…ぞ?あげは」
その蜂蜜に濡れて
テカテカと赤く艶やかに光る
その赤い蝶に 自分の舌を這わせた