第59章 気遣いと気遣い 前編
「ああっ、杏寿郎、せめて菓子を
懐紙の上に置いて頂きたくあります」
あげははそう言いながら
剥き出しになって居る菓子を包もうと
置いてあった懐紙に手を伸ばしていると
こちらを訝しげに見ている
杏寿郎と視線がぶつかって
その手に先程の器があるのが目に映って
「あの、杏寿郎?
そちら如何なさるおつもりに?」
「蜂蜜の瓶に直接、指を入れるなと
君は言いたいんだろう?」
「ダメに決まっておりますよ。杏寿郎。
その様な使い方をなさっては、
後の残りの蜂蜜が、
ダメになって使えませんので」
そうあげはが渋い顔をしながら言うと
杏寿郎はその菓子が盛ってあった器に
蜂蜜用の木製の丸い球に溝のついた
専用の匙を使って
それを絡め付けて掬い取ると
高い所から 勿体付ける様にして
器にトロトロと蜂蜜を移しているのを
こちらに見せつけて来る
「少量あれば、十分だな。あげは」
少量をその器に移すと
木製の匙を瓶に戻して
おいでとこちらに手招きをして来て
促されるままに 胡坐を掻いたその足の上に
あげはが自分の身体を納めた
「あげは、口…開けるか?
それとも、俺の口に入れたのを移すか?」
そう言いながらも器の中にある
少量の蜂蜜を自分の指に纏わせる様にして
練り練りと指で蜂蜜を練って
蜂蜜でテラテラと光る
指先をこちらに向けて来て
「ん?どうした?あげは。
君は、蜂蜜は嫌いか?
そう、遠慮しなくていいぞ?」
ゴクリと思わず 固唾を飲んでしまう
その蜂蜜の味を想像して
そうなってるのではなくて
自分が 彼の指の蜂蜜を口の中に
取り込んだ後の展開に…
期待をしてしまっている…からだ
杏寿郎がこちらに向けて差し出している手に
そっと自分の手を添えて手を握ると
目を伏し目がちにしながら
恐る恐るに 蜂蜜のついた杏寿郎の指を
自分の口の中に迎え入れる