第59章 気遣いと気遣い 前編
「それに、杏寿郎さんが幼い頃に
炎柱としてのお勤めがお忙しくて
そう言ったお時間もあまり無かったかも
知れないから、もう、杏寿郎さんは
大人になってますけど。でも、
親子の時間には変わりはありませんから」
そう言ってふふふとあげはが笑って
「姉上……、分かりました。
この、千寿郎。
一肌脱がせて頂きたくあります」
「ふふふ、お風呂だけに?」
一肌脱ぐを 裸になると言う意味で
あげはに言われてしまって
「いえっ、その、これは決して…ッ
その様な意味合いではっ」
『あげは様、そろそろお部屋にお戻りを』
そう 使用人の一条が
あげはの事を呼びに来て
まだ 夕飯までには
幾分時間があるようにあったが
「部屋に戻るのは、構いませんが。
何かありましたか?」
部屋に戻って居ろとは
言われた憶えはないんだけども
そう思いながら あげはが返事を返す
『出張の、美顔術師が来ておりまして。
あげは様に施術をと、離れに
お通ししてもよろしいでしょうか?』
「美顔術…に、ありますか…?」
美顔術…と言うと
顔を泥やら米ぬかやら
絹糸のまゆ玉とかで
マッサージしたりするアレの事…だよね?
「え?私は、そんな事をお願いした
憶えはありませんが?」
『槇寿郎様…から、
ご依頼を賜っております。
少しなりと、その顔を
明日の為にこましにして置けと…の事でして』
それを明日の結納の為に手配してくれたのが
意外にも槇寿郎だったという事にも驚いたが
明日の為に綺麗にして貰えではなくて
こましにして置けと言う辺りも
なんとも 槇寿郎様らしいなぁと
そんな風に思ってしまって
思わず笑みが零れてしまった
きっと それを槇寿郎様に提案したのは
洋館のお屋敷で執事をしていた
望月さんなんだろうけど…