第59章 気遣いと気遣い 前編
あげはの言葉に
千寿郎が驚いた様子で
きょとんと目を丸くさせていて
「え…、と。それは、
僕に出来ること…なんですか?」
剣士でもないし まだ大人とも呼べない
そんな存在である 自分に
何が出来るのだろうかと 千寿郎は考えて居た
「千寿郎君にしか、出来ない事かな?
って、そう私は考えてるんだけどもね?
槇寿郎様も、杏寿郎さんもお互いに
まだ、わだかたまりと言う…かね?
しこり、みたいなのが残ってるし。
どことなくではあるけど、
見ててぎこちないと言うか。
だから、千寿郎君は
槇寿郎様の息子さんだし、
杏寿郎さんの弟さんでもあるからね」
そこまで言って あげはが
池の中の鯉から視線を
千寿郎の方へ向けて来て
「二人がこう、自然にお互いの
気持ちとか言いたい事とかをね、
伝え合えたらいいなぁって。
私は、そう思ってるんだけどもね?
二人の時間はそうは、中々許しては
くれてなさそうだなって、感じるから」
「あの、姉上っ。僕も…、
姉上のお考えと、同じ気持ちですっ。
でも僕には、そんな…、
父上と兄上の間を取り持つ等は
…到底、務まりません…」
不安そうな面持ちで
千寿郎がそう言って来て
「千寿郎君は、二人と一緒に
お風呂に入ってくれたらそれでいいよ?
前の時みたいに、お風呂、一緒にって
杏寿郎さんには伝えてあるから。
千寿郎君は、
槇寿郎様がそれを渋りそうなら
誘って欲しいなって、それだけ」
どんな事を依頼されるのかと
千寿郎が気を張っていたら
頼まれたのは意外なお願いで
姉上は 前の時の様に
3人で風呂に入る様に既に
兄上には話をしていて
僕には父上がそれを嫌がるなら
誘って欲しいと言う それだけの事だった
たったそれだけの事でいいのだろうか?
そう疑問にも思えなくないが
「そんな事と言いたげな顔、かな?
一緒にお風呂に入るのは、裸になるでしょう?
一番お互いが無防備な姿になるからね、
自然と、心の距離も近くなるから……」