第59章 気遣いと気遣い 前編
「いえ。私は元は柱にありまして。
槇寿郎様とは共に何度か任務をした身。
あの頃の、槇寿郎様が、
奥様とご子息の事を楽しそうに、
お話をされる姿を
見て存じておりましたので…。
あのままに、
して置けなかっただけにあります」
あげはが
何かを懐かしむ様に目を細めると
右手を自分の胸の上に置いて
そのまま ぎゅっとその手で胸を押さえた
「炎柱の槇寿郎様は、
皆の憧れにありました。
私も槇寿郎様に憧れて、
柱を目指した隊士の一人にあります。
穏やかな笑顔を浮かべながら、
ご家族のお話をされるお姿は、
家族を失った者の
多い隊士にとっても。
理想の父親の、
お姿にあったにありましょうね。
鬼殺をしながら、ご家庭もお持ちで
父親としても理想的にあられておられた…」
ギュッとあげはの手を
杏寿郎が握って来て
杏寿郎の顔をあげはが見る
「あげは。
俺達もそうなるしかないだろう?
他の隊士が、憧れる様な。そんな
鬼殺隊士としても、父親としても
母親としても、理想的で在れる様な。
鬼狩り夫婦になるしかないな!」
そう言って杏寿郎が笑って
その笑顔にかつての
槇寿郎の笑顔が重なる
「…鬼狩り、夫婦、にありますか。
ふふふっ、何とも
杏寿郎らしい…発想にありますね」
「俺と、父上との時間も、
埋めて行きたいと
そう考えて居るんだ。俺は」
「それは、杏寿郎さん
槇寿郎様の方も…にありますよ。
ご安心ください。
同じ血を分け合った親子にあります。
それに、これから時間は
お二人にはありますから。
先程のお手合わせも、その為にありましょう?」
「あげは、君がそれが出来る
きっかけを俺と、父上に与えてくれた。
俺からも礼を言いたい。ありがとうあげは」
「杏寿郎さん、そのお礼なら…前にも
言って頂いておりますよ?私は。
ああっ、千寿郎君を中庭で
お待たせしたままにありました。
戻らせて頂きますね?杏寿郎さん後で」