第59章 気遣いと気遣い 前編
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「望月。望月は居るか?」
槇寿郎が廊下を歩きながら
使用人の頭である望月を呼ぶと
「主様。何が御用でありますか?」
その槇寿郎の声を聞いて
望月が槇寿郎の前に現れる
「ああ。望月。お前に
頼んで置きたい事があってな。
俺が、頼まずとも…。杏寿郎が
お前に頼みに来るかも知れんのだが…」
槇寿郎が望月に頼みたい用事と言うのは
杏寿郎に関連する仕事の様だった
「して、主様。
如何用に御座いますでしょうか?」
「ああ。明日の朝の事なんだがな…」
そ そこまで槇寿郎が言って
コホンと一つ咳払いをすると
小さく左右を確認をして
自分と望月の2人だけだと確認すると
辛うじて聞き取れる位の
小さな声で囁く様に言って来て
「…ーーーーーてやってくれまいか?」
「ああ、その事に御座いましたか、成程。
その件、この望月、確かに賜りました」
そう望月が槇寿郎に返すと
すっと頭を下げた
「すまん、頼んだぞ。望月」
「いえ。仕事にありますので。
あの…、主様」
「ん?何だ、望月」
「でありましたら、主様。
温かいナツメ茶か、タンポポ茶でも
あげは様に夜にご用意致しますか?」
「望月」
そう静かに 槇寿郎が言って
「はい?如何なさいますか?主様」
「それは、まだいい。気が早いと
杏寿郎には、釘を刺したばかりだからな。
さっき頼んだ事だけ
して置いてくれ、それでいい。」
「はい、承知賜りました」
そう言ってその場を去ろうとする槇寿郎を
望月が深く頭を下げて 見送った
それと入れ替わりに 杏寿郎が
廊下の向こう側から
こちらへと向かって来るのが見えて
「望月、ここに居たんだな。探したぞ」
「これは、杏寿郎様。私に何か」
望月は杏寿郎の方へと向き直り
深々と頭を下げた