第58章 虎と虎
そんな事が 出来てしまえる人…
彼にとって それが…
どれ程までに
私のそれを許して
そうあって欲しいと願う
それは どれほどに彼にとって
辛い事なのかと
でも それを彼を望んでくれている
願ってくれていると言う事実は
私に 彼の
杏寿郎の気持ちを知らしめてくれる
「俺は、あの時…、
彼を忘れて俺を愛して欲しいと。
あげは。君にどれだけ、
言いたかった事かわからない。
だが、今はそうは思って居ない。
彼はずっと、あげは。
君を守っていたんだ。
今までも、
これから先も。それは変わらない」
「杏寿郎…しかし、それでは」
杏寿郎の顔が
ふっと緩んだ笑顔に変わって
「それに、俺は彼が居なければ
君に出会う事すら出来なかったし。
それに、今こうして君と居る事もない。
あげは。今の君が、君である事が
出来ているのも全て。
三上透真が、…彼が居たからこそだ。
確かに、彼と言う存在が君の運命を
捻じ曲げてしまったのも事実だが。
それとまた同じ位に、
その運命から救ったのも
三上透真、彼本人なのだからな」
「でも、しゃがみ込んでいた私を
立ち上がらせて。止まったままの背中を
押してくれて、手を引いてくれたのは。
杏寿郎にあります。
…それに、驚いてしまいました」
「驚く?何にだ?」
あげはの目に浮かんでいた涙も
もう今は消えていて
ふふっとあげはが笑うと
「二段呼吸にあります、杏寿郎が
あそこまであの呼吸を深めて
形にして下さった事に対してですが?」
「ああ、不知火 炎炎と、鳳凰扇舞と
獄炎虎の事か?君の呼吸のアレンジ法に
ヒントを得たんだ。君は異なる呼吸を
混合する事が出来るが、
俺には炎の呼吸しかないからな。
だが、その分、
既存の炎の呼吸については
知り尽くしまではせずとも、
それなりに、知っているつもりだ」
「杏寿郎…、やはり杏寿郎は
私が見込んだだけの事はございますね」