第58章 虎と虎
泣き止ませようと…して下さってる?
それに 槇寿郎様は
透真さんの 何かを知ってるから
私にこう言って来る…の?
「あっ、あのッ、槇寿郎様。
落ち着きましたのでっ、
落ち着いておりますので。
大丈夫にありますからっ、そのお体を…」
「なら…、あげは。
お前だけは、アイツの真実を
知っていてやってほしい」
そう 胸に顔を押し付けられたままで
そう 話す 槇寿郎の顔を
こちらから窺い知る事は出来ないが
「アイツは償いだけで、
そうしてるんじゃない…と言う事をな」
私の中の 抜け落ちた記憶
隠されていた真実と
残って居る あの人が残した 暗示
それから…
鏡の呼吸の真価を引き出すための ヒント
それが
あの夜への償いでないとするならば
その行動を裏付ける言葉を
私は ひとつしか知らない
「槇寿郎様は…、
何をご存じにあられるのですか?
あの人の、透真さんの事を…」
「さぁな俺は何も知らん。
ただのおっさんのお節介だ」
そんな お節介だなんて
一言で済ませられる様な
そんな物ではないのに
「居るんだろう?杏寿郎。
さっさと離れに連れて行け」
そう襖の向こうに槇寿郎が声を掛けると
遠慮しがちに襖が開いて
廊下には杏寿郎の姿があった
「え?あ、杏、杏寿郎さん?
今のお話…をお聞きに…ッ」
今していた話を聞かれた?
そして 今のを見られてた?
ムッと機嫌が悪そうにしながら
杏寿郎が顔を顰めると
「父上。そう、言われずとも、
そのつもりにあります。
父上はどうにも、
あげはを泣かせるばかりにあられる。
あげは、離れに戻ろう」
そのまま 杏寿郎が
あげはの腕を掴んで
あげはの腕を引きながら
廊下を無言のままで杏寿郎が進んで行く
「あっ、あの…ッ、杏寿郎」
「…………」
「杏寿郎?
聞こえておられないのですか?」
「……」