第58章 虎と虎
槇寿郎があげはの言葉に
自分の目を細めた
細めてぼやけた視界に
アイツの後姿を見た様な気がした
三上透真 …奴はもっと早くに
あげはが いづれ
こうなると知っていたんじゃないかと
そんな風に感じてしまう
俺の目にも 見て分かる
化けた…な と
あの時の 鏡柱をしていた時のあげはは
自分の殻を 脱ぎきっていない
蛹だったのだと言う事に
当の本人も気付いて居なかった
その 事実に
誰よりも 早く
気付いていたんだ アイツは
前に一度 聞いた事があった
自分の屋敷に通わせて
稽古をずっとつけていて
あげはに何故
継子を取らせないのかと
槇寿郎が その時の
透真とのやりとりを思い返す
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『なぁ、透真。お前は
アイツを、どうするつもりなんだ?
もう、アイツも一端の柱なんだぞ?』
『あ~。もしかして、槇寿郎さん。
僕にあげはちゃんはもう、
立派な柱なんだから。
僕の手元にいつまでも過保護にして、
置いて置かないで。
継子を、あげはちゃんに
取らせたらってそう、言ってませんかね?』
そうヘラヘラと
緊張感の欠片もない顔で
緊張感の欠片もない口調で言って来て
『気付いてて自覚してるなら、何とかしろ』
『え~?それは出来ない相談…ですねぇ。
例え、槇寿郎さんから言われても…ね?』
そう言って 笑う
その穏やかな笑顔は
この柔和な彼のどこから
あの剣が 出て来るのかと
信じられず疑ってしまう程に なんの角もない
風に乗って どこからか
桜の花びらが散って飛ばされて来て
透真が自分の手の平を上にすると
まるで その手の平に
吸い寄せられる様にして
ヒラヒラと 一枚の桜の花びらが
透真の手の平の上に落ちる