第58章 虎と虎
ハッとある事に気が付いて
あげはが顔を上げる
いや 違う 彼の呼吸は
地獄の炎じゃなくて
煉獄の 炎…
全ての罪をしがらみを焼き尽くすような
浄化の炎
深い呼吸から いつもの不知火よりも
更に低く 杏寿郎が腰を落とすと
ザッと地面を蹴って 間合いを詰める
その速度に槇寿郎は目を見張った
速いっ なんだこの速度は?
さっきの不知火よりも更に速いのか
ゴゥッっと杏寿郎の持つ木刀の先に
炎が生じて行く
空中で身体を回転させて
不知火の動きをなぞって居るが
大きく傾けた身体から
半月を描く様な軌道で
炎の扇の様に 杏寿郎の木刀が
振り下ろされるのが見えて
「壱ノ型 不知火
改 鳳凰扇舞(ほうおうせんぶ)」
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
その名の如くに 炎の扇が
立て続けに 中央と左右の三撃
こちらに向けて薙ぎ放たれるのを
槇寿郎が咄嗟に出した
盛炎のうねりで杏寿郎の
鳳凰扇舞を受け止めるが
ザザッと 軸足にしている足が
力負けして押されて 僅かに後退して行く
「ちっ、バカ力めがっ!
伍ノ型 炎虎ぉおおおっ!!」
「型からの、型への形勢を
整えながらの切り替え!!
流石は、槇寿郎様にあります!!
杏寿郎の、鳳凰扇舞に対しての、
炎虎の選択、最善の素晴らしい、ご選択。
それでこそ槇寿郎様にあります!」
そう今度は槇寿郎に対して
あげはが拳を握りしめながら
興奮気味な口調で
言っているのを聞いて
千寿郎は内心
姉上はどちらを応援してるのだろうかと
疑問に感じてしまわなくもなかったのだが
ゴォオオオオッ 燃え盛る
炎の虎が
咆哮しながら杏寿郎へと向かって行く
「炎炎の呼吸 伍ノ型 改 獄炎虎!!」
杏寿郎が大きく振り下ろした
木刀の斬撃から 獄炎の虎が
大きな口を開いて 咆哮しながら
獄の字の冠に相応しい
燃え盛る重圧を持つ 炎虎が
牙を剥いて
槇寿郎の放った 炎虎に襲い掛かる