第58章 虎と虎
それこそ この私の身体で
飛んでいる2匹の蝶が
薄れる度に 毎回
彼に留められてしまうんじゃないかとか
そんな事を心配せずに居られなくて
ソワソワと心の中が落ち着かずに居て
「あげは、いいぞ?
だが、良かったのか?」
「で、ですから、今回だけに…あります」
そう 言い張ってみたが
また そうしたいと言い出された時に
私は彼のその申し出を
断われるのかと疑問になってしまっていて
きっと これを何度も繰り返せば
それこそ 本当に
消えない蝶になってしまうかも知れないと
そう彼にも伝えたには伝えたが
「あげは。
君の時間を取らせた詫びをしよう」
杏寿郎が 落ちてしまわない様に
あげはが握っていた着物の合わせの部分を
奪い取る様にして自分の手に取ると
そのまま彼に着物を脱がされてしまって
部屋に置かれていた衣桁掛けに
その着物を掛けてくれて
稽古着に着替えをするのを
手伝われてしまっている
「あの、着替えを手伝って頂かずとも
私は自分で、着替えられますので…。
私の事は、お構いなく、
ご自身のお着換えを
なさっては如何です?杏寿郎は」
スルッと杏寿郎の手が
あげはの左の太ももを
稽古着の袴の上から撫でられてしまって
「俺としては、
顔だけでなく、君のここにも
あの鬼の残した傷跡が残ってるのが
気に入らない限りだがな」
「その傷は、私が杏寿郎を
庇って出来た傷にありますよ?
それに、しのぶちゃんの塗り薬が
ありますから、大きいので
薄れるには時間が掛かりますでしょうが。
一年一年と薄れはしますから」
こうでも言って置かないと
そこにも蝶が増えてしまいそうではあるし
もう これ以上蝶は 増やして欲しくない