第57章 焦れる焦燥 ※Rー18
「彼女には、普通の天ぷらそばで
俺の分は、大盛、2杯で頼む」
『ヘイ。畏まりやした』
そう言って 下がって行く
その人を引き留めたいって思う
つい言葉として口から
出そうになりながらも
その襖が 締められてしまって
部屋の中にふたりきりになってしまった
ドキドキと自分の心臓が騒がしい
そわそわしてしまって落ち着かない
どうしよう?
自分の唾液が上手く喉を越さないでいて
喉の奥が渇くのを感じる
置いてある机に向かい合って座たままで
一言の会話もなく 柱に掛けてある
時計の秒針の音が耳に付く
出されたそば茶を手に取って
気持ちを落ち着かせようと
あげはが湯飲みの中の
そば茶をゴクッと一口飲むと
飲んだそば茶の味なんて
あってない様な物だった
湯飲みを持っていた手に
杏寿郎が手を重ねて来て
「で、あげは。
君がこちら側に来るか?
それとも、俺が、そちら側に行くのか。
どっちがいいんだ?君は。選ぶといい」
机の配置的に…
部屋の間取りの関係とかあるし
こっち側 凄い狭いのに?
こっちに来ても…出来ないんじゃ
私が そっちに行きそうに無いからって事?
「あの、杏寿郎。私には
選ぶ…選択肢が、無い様にあるのですが?」
「俺に、取って食われる…
とでも言いたげな顔だな、あげは。
いや、…強ち、それも間違いでもないな。
食事を食べに来ておいて、肝心の蕎麦も
食わずに、俺は、あげは。
君を食いたいと言ってるんだからな」
そう言ってふぅっと小さく
杏寿郎が息を吐くと
視線をこちらに向けて来る
食べたい…ではなくて
食いたいと言う表現をされてしまって
ゾクゾクと背中が震える
食べたいなんかよりも
食いたいは
よっぽど 本能的な言葉の表現で
食べられちゃう…なんて 可愛い物では
許しては貰えないのが 分かるから
食べられるんじゃなくって
今から彼に 食われるんだ…と
そう意識させられてしまう