第56章 蝶と蜘蛛と
「いや。もう、あげは。
君が頼もしい限りなのは、
俺も分かって居る!
だが、もう少しこういう時はだな」
「大人しく、女性らしくにありますね。
杏寿郎さんを立てて…と、
言う事にありますれば。
それぐらいは私も心得ております。
杏寿郎さんには、もう充分…に
私は常々、
お助けして頂いてばかりにあります。
それこそに、感謝しきれない程に。
私を選んだばかりに、
杏寿郎さんには心労を
お掛けするばかりで
心苦しくもありますのですが。
杏寿郎さんとでなければ、
彼と戦う決意も出来なかったとも、
考えておりますので…」
「あげはっ!
君は俺をどうするつもりだ?」
「今は、私は
杏寿郎と話してはおりませんが?」
今は瑠火に向けて
話をしているので
少し黙っていて欲しいと
あげはに言われてしまって
静かにして居ようと
努力はしてはみるが
どうにもさっきの言葉が嬉しくて
母上に向けての
言葉だったのではあるが
自分に言われている様な
気がしてままならない
「あげは…、俺は今、猛烈に
感動しているんだが?
どうしてくれるつもりだ?」
「どうもこうも、なさいようも
ございませんよ?杏寿郎。
あのっ、ここは、墓前にありますよ?」
ふわっと突然身体が浮いて
杏寿郎に抱きかかえられているのだと
気が付いたのだが
「きゃあっ、杏寿郎?
何をするのでありますか?
降ろしてっ、降ろして下さい」
じたばたと駄々を捏ねる子供の様に
手足を動かして 抵抗を試みるも
しっかりと抱き上げられていて
身動きが取れないでいた
「ダメだ、断る。あげは!
俺は今、この上なく嬉しいからな!
この喜びを君に
伝えずにどうしろと言うんだ?」
きっと日ノ本 広しと言えども
こんな風に墓前で抱き上げられるのは
私位なのではないかと
自信を持って言えそうだ