第56章 蝶と蜘蛛と
俺は生まれながらに
煉獄の家に生れ落ちた時点で
鬼殺隊となり 炎柱となるのは
運命付けられて居たのだ
必然であり 当然でしか無かった
だが あげはは?
あげははどうだ?
あの夜の眠らない町の
蝶の 一羽になっていたのか?
そうでないとするのならば
あの アルビノの彼と夫婦になって
あの病院で 他の患者と家族の様に
幸せに暮らして居たのか?
彼女の人生を捻じ曲げて
この 今の形に押し曲げたのは
他の誰でもない
鬼である三上透真… 本人だ
当の彼女にそれを気付かせずに
そうなるのが
あたかも自然かの様に
もう一人の 自分さえも利用して…
彼女を取り巻く 周囲の人の
行動さえも… 意のままに陰ながら操って
操られている事すらも
そうさせられている事すらも
誰にも 悟らせずに
彼はずっと 準備を整えていたのだ
彼の 水柱である
三上透真の隠れ蓑を着て
鬼と成りし 彼の執着の原点は
あの 悪夢の様な夜ではなくて
既に その前から じわじわと始まっていて
少しずつ
そう 少しずつ…
それは あまりにも 目にも見えなくて
透明な糸の様な
細い細い糸でありながらに
それでいて
静かに 着実に じわじわと
本人に存在を気付かせずに
形を… 整えて来たんだ ずっと 彼は
あげははまるで…
蜘蛛の巣に囚われた
身動きの取れない蝶の様だ
逃れる事も 許されずに
その巣に 捉え続け…られている…のだな
獲物…なのだろう
彼にとって彼女は
それだけに執着するに値する 獲物
彼が蜘蛛で
彼女が蝶ならば…
恐らくに彼の目的は
捕食… なのだろうな