第7章 長い一日
褒美の内容を確認する前に
飲み干されてしまったので
あげるしかないのだが
「なら、俺の事を呼び捨てて、呼んでみて
くれないか?」
「それは、いやです…」
キッパリとお断りされてしまうと
正直悲しくなるが
「だったら、あげは。君の方から…、
口付けてくれるか?」
「いいですよ」
「いいのか?」
あっさりと許可が出たので
面食らってしまった
呼び捨てるのがダメで
こっちがいい理由がわからないが
ちゅっ と頬に口付けをされて
杏寿郎が不満そうな顔をする
「でも、場所の指定はありませんでしたので」
「確かに、してなかったな。
なら、次の時は…口にしてもらえるか?」
「考えておきます」
コンコン ドアをノックする音が聞こえて
しのぶが処置用のセットを持って
ガーゼ交換に来た
「お休みになられる前に、ガーゼ交換
しときますね。あげはさん…介助
お願いできますか?」
しのぶの方から申し出があって
あげはの顔が明るくなる
「いいの?しのぶちゃんっ」
「ええ、構いませんよ、あげはさんも、
創部見られるでしょう?」
そう言ってしのぶが手袋を履いている隣で
あげはも手袋を装着し
ゴミを入れる袋を用意したり
必要な物品を並べて行く
傷を見ながら洗浄と消毒を行い
あれやこれやと用語の多く混じった言葉で
話をしている
どうやら 俺の手術の
自分が眠らされて知らない所の話を
胡蝶から聞いている様だった
話はしては居るが 新しいガーゼに交換され
新品の包帯をあげはが巻き付けて行く
前の回診の患者の包帯を巻き終えて
アオイとなほが入って来る
「じゃあ、どっちかが
あげはさんと交代して下さい」
あげはの傷の処置もしなくてはならない
「いいよ、自分で交換できるし、
観察するし、包帯も巻けるから」
「いーえ、ダメです」
「はいはい、わかりました。アオイちゃん、
後お願いっ」
そう言って杏寿郎の包帯を巻くのを
アオイに交代するとしのぶと自分のベットの
カーテンの奥へと消えて行った
「…お顔の方は、あまり目立たないと
思いますけど、フェイスラインの髪で
隠れますし、こっちは、結構大きい傷ですし。
跡が…しっかり残りますよ?」
カーテンの向こうから
胡蝶の声が聞こえてくる