第55章 再びましての煉獄家
「鳳凰の赤と、
桔梗の青のコントラストが
対極でありながらも、華やかな
引き振袖にあられますね、瑠火様の
瞳の色ともお似合いにあります」
「あの、姉上…、気が早いと叱られて
しまうかも知れなのですが…。
あの、母上のお着物を…
当てて見せて頂けませんでしょうか?」
そうあげはに対して
切り出して来たのは
隣の杏寿郎でも向かいの槇寿郎でもなくて
意外な事に 千寿郎だった
「そうだな。まだ、着るのは
無理だとしても羽織るなら…あの、
構いませんでしょうか?父上」
「お前な。あれを俺はあげはに
預けると言ってるんだ、
俺に反対する理由が
あるとでも思うのか?お前は」
じっと 3人の視線が
こちらに向けられて居る事に
気が付いた 期待の眼差しだ
今は これを羽織れませんとは
言いにくい空気だな…これは
「あげは、これを羽織っている君を
是非見たいのだが。どうだろうか?」
「僕からもお願いします、姉上。
なりません…でしょうか?」
そう下から じっと上目遣いで
うるうると瞳を潤ませながら
見つめられてしまっては…
ダメっ 無理…断れない
「誠に恐縮ではあるのでありますが…、
その、少しだけ…」
「待ってくれ」
衣桁掛けの黒留袖の方へ
移動するあげはを杏寿郎が呼び留めて来て
「杏寿郎さん?如何なさいましたか?」
「俺の手で、これを君の肩に掛けたいと
そう思ったんだ、あげは。いいだろうか?」
彼等にとっては 母の形見の
槇寿郎様にとっては 妻の形見の
祝言の時に着ていた引き振袖を
仕立て直した黒留袖だ
こんな大切な物を自分が着ても
良いのだろうとか 恐れ多く感じてしまって
「あげは。
そう遠慮して、畏まる必要はないぞ?
きっと、君が着てくれる方が
母上もお喜びになられるはずだ」
「杏寿郎…さん。
はい、すいません。
その、…お願い致します…」