第55章 再びましての煉獄家
「鳳凰に桔梗の柄の黒留袖…、
槇寿郎様、こちらの黒留袖は
瑠火様のお召しになられていた
黒留袖にございますね?
槇寿郎様、…私には…」
「あげは。お前の口からは俺は。
これを受け取ると、
言う言葉以外は聞かんぞ?
お前の事だ、瑠火の
思い出のお着物を受け取れないと
言いたいのだろうが、そうは言わさん。
俺が、お前に受け取って貰いたいと
考えているんだ。瑠火が生前俺に、
そうして欲しいと言って居たからな」
あげはがそれを
受け取る事は出来ないと
断わる前に槇寿郎にそう言われてしまって
「受け取って…は、
頂けませんでしょうか?姉上」
そう今にも泣きだしてしまいそうな
そんな悲しそうな顔をして
千寿郎が訴えかけて来て
「あの、槇寿郎様。
その様なご申し出、
この様な、大切なお着物を。
私等が…、受け取るのは難しいのですが。
その、私に可能にありますのは…。
私に、そちらを…、千寿郎君が、
奥様をお迎えする日まで代わりに
私がお預かりを、させて頂く形であれば…」
「あげはっ、
千寿郎には、まだそんな…
妻を娶るなど、早すぎるだろう」
「姉上っ、その僕の…
お嫁さんになる…方にですか?」
「その千寿郎の結婚式にでも、
それを着ればいいだろう?あげは。
それに杏寿郎、そうは言うが。
千寿郎もいつまでも、子供でもあるまい?
そんな滅茶苦茶に先の話でもないだろう。
7年、8年もすればあり得なくもない」
自分が結婚をする時の話をされてしまって
千寿郎が顔を真っ赤に染めてしまって
赤い顔を自分の両手に挟んで
そわそわと落ち着かない様子だった
「で、だ。
あくまで、受け取れないと言いたいのか?」
「そのお着物は…、槇寿郎様…。
私がお受け取りしていい物ではございませんよ?
槇寿郎様にとっても、
大切な思い出の品であるのでありましょう?」