第55章 再びましての煉獄家
「いや、むしろ、
千寿郎君はそのままで居て。
守るのは、こっちに
任せて置いてくれていいから!」
庇護欲をいちいちに千寿郎の言葉や
表情に刺激されてしまって
どうにも彼を
守ってあげたい気持ちになる
「荷物が、運べたら、瑠火様の
お仏壇に手を合わせたいんだけど。
それに、千寿郎君は頼りなくなんてないよ?
とっても、頼りになると思うけどな。私は」
「あっ、姉上。
いえ、そんな…僕なんて…。
でも、姉上にそう言って頂けたなら。
その、僕、嬉しいです」
「あげは。
お前は杏寿郎だけに飽き足らず、
千寿郎まで誑し込むつもりか?
俺の目の黒い内は、
お前の好きにはさせんぞ?」
「どう言う事だ?あげは。
俺が離れてる間に、千寿郎を君が
誑し込んでいたのか?聞き捨てならんな」
同じ様にしかめっ面をした
同じ顔が二つ並んでいて
その視線がこっちに向いてる
「誤解にあります、槇寿郎様。
私は、千寿郎君を、
誑し込んで等はおりませんから。
ああ、あの、槇寿郎様…。
お邪魔させて頂いております」
槇寿郎があげはから視線を逸らせると
ぼそっと聞き取りにくい様な声で
「…―――だ」
「え?今…何と、
仰られたのでありますか?
槇寿郎様。お声が小さくあられたので、
聞き取れませんでしたが」
「ふんっ。何度も言わん、勝手にしろ。
俺はもう、言ったからな。答えんぞ」
クイクイっと隣から
あげはの着物を千寿郎が引っ張って来て
千寿郎があげはの耳に手を当てて
耳打ちをして来る
「(姉上。今、父上は、
お邪魔しますではなくですね。
ただいまと言えと、
仰られておいででおられました)」
ただいま…と言えって
槇寿郎様が 私に??
かあっと今度は
あげはが顔を赤く染めてしまって
恥ずかしそうに自分の手の指先同士を
ツンツンと合わせながらに
そわそわと落ち着かない様子をしながら
「えと……、その、
ただいま戻りました。槇寿郎様」