第54章 忘却の果ての追憶
「人は…その人が
例えどんな人であろうと、
障害があろうとなかろうと、
病気であろうとなかろうと。
善人であろうと、悪人であろうとも。
大金持ちであうとも、貧乏人であろうとも
生れ落ちた以上には、死は平等にあるのだと」
医者と言う立場から見た
死への考えなのだろうか
死と言う運命に一番 抗いたいだろうが
あくまでも 死は 絶対なのだと言う
「確かに、人は
いずれ死ぬ定めに違いないが…」
「まだ、続きがございますよ?杏寿郎。
この世界の全ての人が、生まれる時と
死ぬ時は、等しくに平等であり。
誰もが100点満点なのだと、
いつも、私の父が申しておりました。
一言一句、
私が記憶してしまう程に…しばしばには」
彼女がどうして
今 このタイミングで
俺にその話をして来るのかと…
彼女に確認するまでも…ない……な
この あげはの言葉は
あげはの父親の言葉の代弁ではあるが
彼女自身の 願いでもある…な
然るべき日に 来る
彼の死が そうであって欲しいと言う
彼女の願い…だ
今まで見て来た 全ての死が
そうであって欲しいと言う願いでもあり
彼の死も
それと同じくにそうであって欲しいと
願わずには居られない
「父はお酒に弱く、酔うといつも。
これは俺の持論だとか、綺麗事だと
そうぼやいておりましたが……。
私は、それは父自身の
願いでも…あったのだと、
そう、思っておりますし。
そうあって欲しいと願っております。
誰もに平等で穏やかな最期が
あればいいと望んでおります」
「ああ、君のお父上は
立派なお考えの持ち主の様だ。
きっと、そのお父上のお考えが、
君のその考えの
礎となっているんだろうな!」
父親の元を後にして
馬車の止めてある方へと
湖畔の道を歩いていると
ふと あげはが足を止めて
その湖の方へと目を向けた