第54章 忘却の果ての追憶
いつくかの墓が並んであったが
その墓を見て 杏寿郎が顔を顰めた
地面に直接
石碑の様な物が埋め込まれている
見慣れない形の墓だったからだ
「私の父は、
キリスト教徒でありましたから。
父はクリスチャンで、
キリスト教の教えに従って、
あの病院をしておりましたので。
ああ、私は洗礼を受けておりませんので。
キリスト教徒ではございませんから。
その辺りは、ご安心を」
「君のお父上はキリスト教徒だったのか…、
各地に教会もあるにはあるが……。
余り、馴染みがない物だからな」
あげはがその父の墓の前に腰を降ろすと
その墓石を手でそっと撫でつける
ハート型に整えられた花は
墓前に供える物と言うよりは
結婚式の会場でも飾れそうな感じの物で
使われている花も白いバラやユリ
白い菊や白いカーネーションと和洋混合の様だ
「割かし、花は自由なので。
好きな花を供える方が一般的にありますが」
線香立てもなければ
花を立てて置く部分も無いから
花輪みたいな形にして貰ったのか
「今日は…、父さんに彼を紹介したくて。
私ね…、彼と結婚する事にしたの。
報告が父さんに遅れちゃって、ごめんね?
ここにも、中々来れなくて…」
「あげはさんのお父上。初めまして。
私は、煉獄杏寿郎と申します。
こちらへのあげはさんとの
結婚のご挨拶が遅れました事、
私の方からもお詫びを申し上げます」
杏寿郎がそう言って深々と頭を下げた
その墓石に向かて
両手を合わそうとしたので
その手にあげはが自分の手を重ねて
ふるふると首を左右に振った
「キリスト教では故人に対して、
祈りを捧げたりはしません。
故人がここに居ると言う、
仏教徒ともお墓と言う
その物に対する解釈が違います故。
あくまでも、その人を
思い出すための記念碑の様な
そんな意味合いにありますから。
そもそもの死の概念が
キリスト教と仏教では異なりますから」