第54章 忘却の果ての追憶
「杏寿郎」
そう強い口調であげはが
杏寿郎の名を呼んで来て
「杏寿郎には、
あげはがおりますから。
なるように、なります。
そうにありましょう?杏寿郎」
そう 俺を思って言ってくれている
あげはに対して
聞いてしまいたく なってしまった
俺で いいのかと
俺で良かったのかと……
君が傍らに居るべき相手は
俺じゃないんじゃないかと
そんな風にすら…感じてしまう
「杏寿郎、
すいません。失礼を致しますね?」
そう謝られたかと思ったら
あげはが両手を俺の頬を挟む様にして
添えて来て
パンッと音を立てて
両頬を打たれてしまった
「……っ!?一体…、君は…、何を…」
「杏寿郎。
貴方がそうでどうにありますか?
私の心の在り様など、杏寿郎に
ご心配頂く程にも及びませんよ」
ギュッとあげはの頬に添えた手で
挟まれる様にして押さえつけられてしまって
「それにお忘れにあられますか?
私と貴方がそうなるのは、既に
私と貴方だけの望みでも何でももう
無いにありますでしょう?
今更にあります。ここまで来て
後ろには引けません、そうにありましょう?」
ここまで来て 後ろには引けない
そうだ 引けないし引いていい物でもない
俺は今まで何度も
それを彼女に受け入れさそうとして来て
ここに来て 何故
そんな事を考えてしまっていたのか
きっと それは この場所が
彼を 三上透真を
酷く思わせるから…だろうな
「杏寿郎、貴方に
私の父に会って頂きたいのです」
そう あげはが
ここに来た本来の目的を切り出して来て
「ああ、そうだな、あげは。
俺からも君の
お父上にご挨拶がしたいからな」
そう言われて向かった
彼女の父親の墓は
湖の湖畔にあった
あげはの話に寄る所には
その場所はかつての
あの惨劇のあった病院の跡地に建てられていて