第54章 忘却の果ての追憶
「全く嬉しくない、モテ方にありますよ?」
「確かに…、それは言えてるな。
あげは、どうだ、立てるか?
呼吸も心拍数も落ち着いて来たようだが」
杏寿郎が差し出して来た手を
あげはが取ると
グッと引き上げられて
立ち上がらせられる
「あげは…」
そのまま立ち上がらせらたかと思うと
杏寿郎の腕の中に包み込まれてしまって
「あっ、あの、
もう落ち着いて来たので
大丈夫にありますよ?杏寿郎」
「あげは。君は俺に…、
愛されていてくれたらそれでいい」
「杏寿郎に…ではなくて、
杏寿郎だけに……にあります」
ギュッとそのあげはの身体を
抱きしめる腕に力を込めてしまっていた
俺だけに愛されていてくれたらと
つい口に出してしまっていた
あげはにも 言葉にさせてしまって居て
自分の弱さを あげはの言葉に
鏡に映されて 見せつけられているかの様だ
彼から 水柱 三上透真から…
彼女に注がれているのは
今も変わらない 愛情でしか無いのに
彼は俺があげはと出会う
ずっと前から
ずっと彼女を
あげはを守って居た……んだな
彼は ずっと そうして来ていたのか
最初は もう一人の自分が
彼女へしようとした事への
罪滅ぼしの償いでしか
無かったのかも知れないが
きっかけはどうであれど…
彼は あげはを
スルッとあげはの手が
杏寿郎の頬に触れて来て
「杏寿郎の方が、私よりも
辛そう…、にありますよ?顔色が」
心配そうな顔をして
俺の顔を見上げている
あげはと目が合った
「……あげは…」
底の無い 沼にでも
沈んでいるかのような
そんな 不安でしかない
俺は あげは 君を
守れている……か?