第54章 忘却の果ての追憶
「流石は杏寿郎にありますね。
貴方のご指摘の
通りに、そうする…募りでありました。
でも、今は…違います。杏寿郎、
貴方は私に、それを望まないし……。
それをお許しになられないでありましょう?」
俺の言葉から
俺が心配している事を
あげはの方も悟ってくれている様で
そう返事を返して来る
「あげは。君が…、
いつかに俺の子を産む事に
同意してくれた事は、
俺も喜ばしく思って居る。
だが、俺がそれを望めば望むほどに。
それが君にとって負担になっている事に、
そこはかとなく……には気付いていたんだ。
俺はそれに、全くの不安は感じてはいないが。
俺が君を変えてしまうと言う事には、
変わりはない事実だからな」
ひとりの
”仁科 あげは”と言う 女性から
母親という
”煉獄 あげは”と言う 存在に
彼女を変えてしまうのは
紛れる事もなく 俺自身だ
「不安は…あります。
自分にそれが務まるのかと言う、
釈然としない不安ですが」
釈然としないと 彼女が言葉にした通りに
その不安には 具体性がないのだ
彼女自身が どの部分に対して
自分にそれが足りないと感じてるのかすらが
ぼんやりとぼやけてしまっているのだ
「ですが…、
案ずるより産むが易しと言いますし」
「母は強しとも言うからな!
なる様になる。
それに、君には俺が居るだろう?
君が母親になるのなら、
それと同じくして俺も、
父親になるのだからな!ひとりじゃないんだ」
そんな話をしている間に
馬車が減速している事に気が付いた
「すいやせん、お客さん。
出がけに、寄って欲しいって
おっしゃっていた花屋に着きましたぜ?」
道中で花屋があったら寄って欲しいと
馬車の運転手には
屋敷を出る際に
予め 希望を伝えておいたから
営業をしている花屋の前で馬車を止めると
馬車の運転手がそう
2人に対して知らせて来た