第52章 蝶の悩みと晩御飯
「あげは。
その…、いつもよりも
随分と長い風呂だった様だが。
俺の為に君の、その身体を隅々まで、
丁寧に磨き上げてくれていたのか?」
部屋に戻ると
杏寿郎がそう声を掛けて来て
部屋の時計を見て
それで初めて気がついたが
かなり長い時間 入浴をしていた様だった
考え事してたから遅くなりましたとは
杏寿郎には言いにくいけど
確かにいつもの1.5倍は入ってたから
そう言われてしまっても仕方ないけど
「えっ?いやっ…
その。そう言った訳では…」
「なら、逆か?」
「逆?」
「俺とそうしたくなくて、
時間稼ぎに、わざとゆっくり
風呂に入って居たのか?どうなんだ?
あげは、どっち…だ?」
「そっ、それも…違いますッ」
俺の為に丁寧に身体を洗っていて
遅くなったのでもなく
それでいて そうなるのが嫌で
時間を稼いでいたと言う訳でもないのなら
あげはは風呂場で一体 何をしていたのか
「なら、そうでないと言うのなら。
理由を…教えては
くれないだろうか?あげは」
「考え事を、していました」
「考え事?おいで。あげは。
ここに座るといい、
髪に香油を付けてやろう」
おいでと言われて
あげはがあぐらを搔いている
杏寿郎の膝の上に座ると
髪に香油を馴染ませてくれる
そのまま 香油を馴染ませた
濡れ髪をその手に取って
杏寿郎が鼻を近付ける
甘いあんずの香りが
あげはの髪から香り立って
艶やかなあげはの髪を
一層に艶やかに輝かせていた
「あげは、君の髪は
艶やかで綺麗な髪だな…。
して、考え事と言うのは俺の事でか?」
「半分はそうですが…」
そう言葉を濁しながら
あげはが答えて来て
「半分?どういう意味だ?」
「このまま、彼を倒した後も。
鬼狩りを続けるのかと
言う事に……あります」
「ああ、その事か。気になってしまうか?
俺は前にも話したが、どちらでもいいがな。
どちらも俺の願いであるし、
君がその上でどちらを選んだ所で…」