第50章 団子屋事変
「いやいや、とんでもねぇでさ。
うちの娘が、失礼な物言いを…。
素直ないい娘なんですがねィ。少々
こう、なんつうか人一倍、夢見がちな
所がありやしてねィ」
そう一旦 店の主人が
言葉を区切って目を細める
「半年前にあの、
鬼狩り様に助けられて以来。
あの鬼狩り様の嫁になるって言って
こっちの話を、聞かなかったもんでねィ。
鬼狩り様には、申し訳が立たねぇんだが
いすゞには、
あの8年前の記憶がねぇらしいんでさァ」
そうあげはに対して申し訳なさそうに
主人が言って来て
いいえとあげはが首を横に振った
「いえ、あの時の事は、
憶えて居なくて当然です。
あの時、私の極めて個人的な判断で
いすゞさんには暗示を掛けてあります。
一種の催眠術の様な物ですが、目の前で
ご自身のお友達が亡くなられて鬼に
食べられるのを見ていた記憶なんて
無い方がいいですから…。
ですから、あの時、私はお二人には
いすゞさんにはこの話をしないでと
お伝えして居たはずです。
その事については、予めあちらの
ご両親にもお伝えして置きましたし。
お辛い中でありながらも、ご了承を頂きまして
ご理解を示して頂けたので助かりました」
鬼殺隊は
鬼を狩るだけじゃない
鬼に家族を殺された人への
怪我を負わされた人への
心理的なアフターケアーもしている
暗示による記憶の操作は
私よりもしのぶちゃんの方が各段に上手いけど
その対象が 幼くて
疑いを知らず 純粋であればある程
暗示には掛かりやすいし
その暗示も 長く続く
8年も 私が掛けた暗示が解けてないのは
それだけ あの いすゞと言う娘さんが
素直で純粋な性分を
していると言う証拠なのだから
「暗示も掛りやすい人と、
掛かりにくい人が居ますし。
何かのきっかけがあれば、
あっさりと解けてしまう事もあるので。
あっても、辛いだけの記憶なら…とも
思いますし、一時的に塞いでるだけなので。
きっと本人が欲すれば、戻るかと思います」