第1章 序章
「あ、あまり私を、
…からかわないで下さい」
そう言ってあげはから逃げるように
視線を逸らせる
しのぶの耳が少し赤くなっていて
案外しのぶちゃんも
可愛い所あるよなぁと思ってしまった
「だったら、今度あの人に上手く
言っといてくれるよね?」
「そ、そんな事、自分でお伝えに
なられたらいいじゃないですか!
それに、ちゃんとお断りするのは、
相手を知ってからでもいいのでは?」
さっきといい 今といい
しのぶちゃんにしては珍しいな
しのぶちゃんから見ても
彼には一目置いていると言う感じなのかな?
「だったら、せめて求婚は
待ってもらいたいんだけど?」
あげはの言葉にしのぶは自分の
言いたいことが伝わったのを感じて
ホッとしている様だった
「それでしたら、いい考えがあります」
「しのぶちゃんはさぁ、誰の味方な訳?」
「あげはさんのでもありますし、
煉獄さんのでもありますよ」
「あっそ、しのぶちゃんらしいお答えだこと」
俺は任務を終えて
お館様の元へその報告へ来ていた
杏寿郎が中庭へ入ると
今日はお体の加減がいいのか
産屋敷耀哉の姿は中庭にあった
産屋敷家は1000年以上前から続く
由緒正しき家柄で
お館様はその97代目のご当主であられる
「…やあ、杏寿郎。良く来てくれたね。
そろそろ来る頃だと思っていたよ」
「お館様に置かれましても、
ご壮健のご様子で何より」
「今日は、杏寿郎に少し、
話したい事があってね…」
「…お話、と仰られますと?」
「君は、あげはに求婚したそうだね。
聞いているよ」
「な、なぜ、お館様がそれを…」
あの場に居合わせて居たのは
俺と彼女と…そして
「…胡…蝶が、お館様に話したのですね」
「しのぶが困っていたよ、杏寿郎を
嗜めてくれないかと頼まれてしまってね
でも、私は…、
君を嗜めるつもりはないよ。杏寿郎」
ああ なんて心地のいい声を
されているのだろう
ふわふわとした
高揚感に包み込まれて行くようだ
「では、なぜ…」
「…私は、子供達の幸せを
願っているからね…。
あげはの事も良く知っているよ、
もう9年になるね。
あげはは強くて、そして優しい子だ」
「お館様…」
「杏寿郎、君が、あの子を… あげはを、
幸せにしてやって、くれるかい?」