第49章 日と炎と
応接間の掃除を済ませて
もしかすると応接間ではなく
別の部屋に通す様に言われるかもと
別の部屋の掃除に向かおうとした望月が
廊下の真ん中で這いつくばって
ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべている
一条に対して声を掛けた
「一条、お前。
旦那様にお茶をお持ちしたのか?
どうして、
こんな所で這いつくばってる?
そんな暇があるなら、
屋敷の掃除でもしたらどうだ?」
ガラッと別の和室の襖が開いて
「望月さん、お茶だったら
千寿郎坊ちゃまが一条さんから
お役事持って行ってしまわれましたよ?」
別の部屋の掃除をしていた
もう一人の女性の使用人である
清水がそう望月に答えた
「清水。お前はお前で、
どうしてそこに居る?
もう朝餉の片付けは済んだのか?」
「ええ、ですので、
此方の掃除をしていましたが。
千寿郎坊ちゃまに、一条さんは絆されて
骨抜きにされてしまっておいでですから。
当分は使い物になりませんよ。
私は襖越しのお声を
お聞きしていただけでしたので、
そのお顔は
拝見しておりませんでしたから」
難を免れましたとそう清水が付け足した
「うちの、千寿郎坊ちゃんは
今から末が恐ろしくあられる」
「しかし、望月さん。
人たらし…と例えると
言葉が悪いかも知れませんが、
そう言った意味でなら…
杏寿郎様とて同じ事。
それに…、ご主人様も柔らかくなられて。
お人が別人の様になられた様だと
近所でも評判にありますよ?」
じとっとした視線を望月が清水に向けて
「清水。お前は、仕事は早いが…
ご近所さんと井戸端会議をすると、
戻って来なくなるからな。
その辺りは、夕餉の支度もあるんだ
程々でに頼むぞ。だが…確かに
お前が言う様に、
旦那様は人が変わったようだ。
それもこれも…全て」
望月がそう言いながら遠い目をすると
その視線の先を清水が追った
その方向は この屋敷の主である
槇寿郎の部屋の方角で