第48章 嵐、束の間の静けさのち嵐 後編
「師範ッ、それは紛れもない
事実にはあるのですが。
強くなってる気がしません。
現に心だって揺らいでますし…」
「ひとりで無理なら、出来ぬのならば。
ふたりならどうだ?
その迷いも葛藤も全て、ふたりでなら
どうにでもなる物だろう?違うか?
人の心はうつろうし揺らぐ物だ。
だが、それも人であると言う事の証。
お前が人だから、
迷うし憂うのだからな。だから
お前はそれを無かった事にするな、
あげは。人で在りながらに、
お前はその上のその先へ行け!」
師範のその言葉は
一聴するだけでは どうにも
矛盾している様にも感られる様な内容で
無茶な注文の様にすら聞こえなくもないが…
師範の言葉の真意を…噛みしめれば
師範が言わんとしている事が浮かんでくる
「全てを
受け入れて、受け止めろと?私に?」
師範が瞼を閉じて瞑目する
スッと薄目を開くと
呟く様にして言った
「お前には見えているんじゃないのか?
それを全て受け止めた先にある未来が」
師範のその言葉に
見えた…気がした
その上の その先にある 答えが
「あっ。師範ッ…あのッ」
許されたんだ 私は
その揺らぐ心もそのままでいいと
それを弱みだと思わなくていいと
それも 全て 乗り越えなさいと
それも ひとりでそれをするのではなくて
杏寿郎と一緒に 乗り越えなさいって
そう 叱咤激励を師範から受けたんだと
「…っ、師範…」
「すぐ泣くな、お前は…」
「なっ、泣いてませんっ。…まだッ」
私の泣き虫癖は 昔からなので
師範はよくよく知っているので
そうからかうように言って来て
苦しながらにあげはがそう返した
「泣くなとも言わん。だが、
泣くのなら、その槇寿郎の倅の前でな?」
泣いてもいいとまで言われてしまって
「しっ、師範が優しいっ、
気持ち悪いっ…んですけど?」