第48章 嵐、束の間の静けさのち嵐 後編
「なッ、師範は私に嫌味を言いに、
わざわざ、こんな所まで
やって来られたのですか?」
「いーや、違うが。阿呆だろ?お前。
そんな訳があるまい?
私とて、そこまで暇でもないぞ?
あげは、お前に確認がしたくてな。
お前の新しい婚約者の、
その炎柱とやら。槇寿郎の倅と
結婚すると言うのは?本当なのか?」
ジッとその青い瞳が
あげはの顔を捉えていて
…その 杏寿郎との結婚を
報告する手紙を師範に出したのは
私だと言うのに…
「師範には、その件に付きましては
こちらから報告の文を送りましたが?」
「確かに文は受け取ったが、
正直な所、私には半信半疑だった。
お前には透真だけかと思ってたからな」
ズキッとその師範の言葉に
あげはの胸が痛んだ
ーお前には透真だけだと思ってたー
「それに、お前は優しいからな。
優しすぎる、鬼狩りには向いてない。
私は、お前を育手として
育ててる間にも。何度も、
忠告して来ただろう?辞めろと。
ちゃんと透真と
戦えるのか心配になっただけだ。
お前に、討てるのか?あげは。
お前の愛したあの男を、
三上透真を、討てるか?」
やっぱり 師範は師範だ
私と言うのの
性格を良くご存じであられる
ふっとあげはの顔が曇る
「だが、悔しくもあるが…
お前の性分は悲しいかな、
鬼狩りには向いてないが。
才能はある、鬼狩りの才能がな。
お前の性分が、それを邪魔してるんだ。
それを捨てる冷静さか冷徹さ、
もしくは…別の何かでそれをお前が
克服できるなら…あげは、お前は…」
自分の師範の言葉に
何を言っているんだと言いたげに
あげはが顔を顰めて
「ええぇ?師範が私を褒めるとか
天変地異の前触れじゃないですか?
明日、日本が滅びかねないじゃ」
「それがわざわざ、叱咤激励しに来た
自分の恩師に対する態度か?
随分と悪態を付いて来る…な」