第47章 嵐、束の間の静けさのち嵐 前編
「お顔をお上げ下さい、あげは様。
でしたら、お礼は炎柱様に。
春日は知っていた事を
お伝えしたまでにあります」
その春日の言葉に
あげはが目を丸くさせて
ぱちぱちと瞬きをする
「春日さんがそう、仰られるのであれば。
そうします。あの…、詳しくお聞きしても?
杏寿郎からは鋏が入る事はないとは、
聞いたのですが、具体的には…どんな感じで?」
「ええ、裾を引くのが引き振袖にありますから。
仕立て直しは、裾に比翼を足す物にありますが。
その比翼も重ねればより豪華で映えますから。
裾綿も入るので、より一層全体のシルエットが
美しくなりますよ?」
その春日の言葉に比翼を足して
裾綿の入った あの振袖を想像してみる
「ああ、何でもその比翼にも箔押しの
ある加工も施せるらしいですが。
単色ではなく、紅白になさるのも
宜しいかと。
ああ、結納が終わられましたら
そちらにまでご案内をするようにと。
炎柱様に仰せつかっておりますが?」
その仕立て直しを扱っている店で
一通りの仕立て直しの手順を
聞いたのであろう春日が
あげはに対して丁寧にその振袖を
引き振袖にする仕立てを説明して来て
「ああ、勿論。
袖の方にも袖綿が入りますよ、それに…」
「それに?」
「引き振袖の上から、
色打掛を羽織られるのも可能ですが?
あげは様は上背がおありであられるから、
引き振袖がとてもお似合いかと。
引き振袖自体が、
背を高く見せるお着物にありますし。
単体でもお美しくありますでしょうが。
その上に色打掛を合わせになられれば、
とても煌びやかになりましょうね」
え?あの色打掛を
引き振袖の上に…??
その発想は無かった…な
「ええええっ、そんなっ事が可能で??」
「引き振袖だけで着るのと、
その上に色打掛を羽織ればお色直しも
羽織るだけですから、
お客様をお待たせもしませんし。
普通の振袖に色打掛を合わすよりも、
より華やかな印象になりますでしょう?」
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用語解説
・比翼(ひよく)とは
着物の裾に縫い付けて、着物を
重ね着している様に見せる為の物です。
・裾綿(すそわた)比翼の中に
綿を入れて厚みを持たせると
より豪華な見栄えのする物になります。